深夜2時とスイカとなんだか言葉にならない感じ

深夜2時です。
腹をすかせた俺。コーヒーのミルクもちょうど切れてたし買い物に行くことにしました。
水色の自転車で家を出て、近くのスーパーまで、タバコを吸って。
街は静かで、最近変な音を立て始めた俺の水色の自転車のガラガラという音がいつになく響く夜です。
スーパーに着いて水色の自転車をとめて、
店に入っても「いらっしゃいませ」の声もありませんでした。
店に入ってすぐのところにスイカが298円で売っていて、それが俺の目にとまりました。
そういえば最近スイカって食ってないな、もうすぐ夏やし安いし買うかと思ってかごにどかりと置きました。
何にもなかったかごが一気に重くなる。
それはしかし、確かな手応えもあって、
イカなんて個人的に買ったことなかったので、
ちょっとした収穫みたいに映りました。

飲み物の売り場のところに男の店員が二人いて、
俺が牛乳を取るとそのうちの一人が小声で、ありがとうございます、とつぶやきました。
売る気はあるんだなと思った。
その二人は品出しをしながら会話していて、
そのうちの一人が、もう一人の店員に「もう、ほんまつかれたんですよ・・」ってつぶやいて、
もう一人の先輩と思しき店員が「来週も出れへんのか」って彼に聞いて、
前髪をダッカールピンで留めた部屋着の俺は、スイカと牛乳を入れたかごを持って、その若い店員の話から、この人達の状況をあれこれと想像しながら、結局何もわからず、何も言わず通り過ぎました。

深夜2時です。
店に、向かいのレンタルビデオ屋で用事を済ませた男が入ってきました。
ステッカーでべたべたのヘルメットをかぶった男とそいつの友人が、酎ハイを買っていました。
少しだけ年上の女の人が店内の空調の寒さに若干身をすくめながら買い物をしていました。
俺も半袖短パンだったので、若干寒気はしていた。
適当に安い野菜と安い肉をえらび、お菓子とふりかけとマリームとスイカと牛乳をもって、レジに向かいました。
さっきぼやいていた店員がレジに立った。

俺は店を後にしました。

何でスイカ買ったんだろう。

水色の自転車をこいだ。
確かにスイカのにおいに俺は実家の夏を見た。
何で俺は深夜2時に郷愁やら季節の変わり目やらを感じてるんだろう。
周りを冷静な目で見ると、目に見えるものがみんな疲れていた。
客も、店員も、店も、道も、マンションも、みんな疲れてた。
現実に引き戻された。俺も疲れていたことに気づいた。
みんな疲れてるならなんで寝ないんだろう。
俺もだれもかれもみんな疲れてるのに何で寝ないんだろう。
寝ない人が来るから、店が開き、そこで働く人も引きずられるようにして寝ない。
こんな日本の片隅で、世界の片隅で、今日もそんな人達がうごめいている。
そうこうしてる間にまた夜が明けて、また学校や仕事に行く。

イカのくれた和やかな優しい気持ちとは裏腹に俺の生きるこのせかいはなんと不健康で、残酷で殺伐としているんだろう。
いつからそうなってしまったんだろう。
深夜2時に何でも食べものが手に入ってしまう、俺の住む日本ってなんなんだろう。

そんなことを考えながら。

水色の自転車だってちょっと前はガラガラ音なんかしなかったのに。
深夜2時。

子供の頃みんなで食べたスイカ、果たして一人で食べきれるかな。
もうすぐ大学3年目の夏がやってくる。