レポート「報道の中立性の欠如について」

 前期も終わりに近づいてきたこともありテスト勉強とレポートに追われています。で、さっきレポートをひとつ書き終わりましたが書きっぱなしじゃもったいないのでここにも載せることにします。
課題「最近の北朝鮮に関するニュースの傾向と問題点を分析してください」

 もともと北朝鮮に関する問題は日本における大きな外交問題のひとつであり、日本人なら関心のある人が少なくないと思われるが、北朝鮮がミサイルを日本海に向けて発射したあたりから、私も北朝鮮とそれをめぐる報道にさらに関心を持つようになった。そして北朝鮮をめぐってはここ数日でまた大きな動きがあった。北朝鮮の核施設停止とそれに伴う6カ国協議再開、次の段階として浮上してきた核施設の無力化と北朝鮮側からの見返りの要求、など北朝鮮をめぐる各国の攻防の行方は大いに気になるところである。そういうわけでテレビのニュースでも北朝鮮関連の報道は毎日のように報道されているが、私が一連の北朝鮮報道を見ていてひとつ思うことは、テレビ局の意向によってある程度のバイアスがかかっているような気がする点である。中立性の欠如がそこにはある。
 例として北朝鮮報道の中から少し前になるが5月25日のミサイル発射のニュースを引用する。ひとつは朝日によるニュースで、もうひとつはAFP通信によるニュースである。


北朝鮮が地対艦ミサイル発射 演習か 2007年05月25日18時50分

韓国政府当局者など複数の関係筋は25日、北朝鮮が同日午前、東海岸から日本海に向けて短距離の地対艦ミサイル1発を発射したことを明らかにした。複数という情報もある。米国が関係国に通報した。
関係筋によれば、射程は短く、約95キロ飛んで日本海に落ちたという。
中国製の「シルクワーム」か、その改良型とみられる。
安倍首相は25日夜、首相官邸で記者団の質問に答え、「日本の安全保障にとって重大な問題であるという風には認識はしていない」と強調した。
日本政府関係者によれば、北朝鮮は前日、複数の海域で、航行制限区域を設定していたという。韓国合同参謀本部は25日、「今回の短距離ミサイル発射は、北朝鮮が例年実施してきた通常訓練の一環と推定される」と説明した。
北朝鮮はこれまで、米韓合同軍事演習が行われる3月前後にシルクワームを発射する場合が多かった。
この時期の発射について、関係者からは「米国が進めるミサイル防衛(MD)への反発ではないか」「25日の韓国イージス艦進水式に合わせた可能性もある」などの指摘が出ている。
http://www.asahi.com/international/update/0525/TKY200705250331.html?ref=doraku

北朝鮮ミサイル発射に対し「我慢にも限界」、安倍首相が警告 2007年05月25日 21:27
【5月25日 AFP】北朝鮮が25日朝に行ったミサイル発射について、安倍晋三首相は、今回の発射による危険を否定しながらも、日本の我慢にも限界がある、と警告した。
同日朝のミサイル発射に関しては、「(得ている情報について)詳しくは言えないが、日本の安全保障にとって重大なことだという認識はしていない」と語った。
しかし、北朝鮮に対する強硬路線で知られる同首相は、常に述べている警告を繰り返し、北朝鮮は6か国協議での合意事項である核施設の閉鎖を実行しなければならない、と再強調した。
日本は北朝鮮に新たな制裁を課す可能性があるかと質問された首相は、「我々の我慢にも限界があると(北朝鮮に)伝えてきた」とし、「北朝 鮮が国際社会の懸念に答えずに、また逆の行動をとるということになれば、われわれもいろいろと考えていかなければならないと思っている」と述べた。
また、6か国協議の合意事項を完全履行しない限り、北朝鮮の抱える問題は何も解決しないばかりか、悪化するだろうという点を北朝鮮は認識すべきだ、と述べた。
北朝鮮は今年2月、同国の核問題をめぐる6か国協議で、欠乏に悩むエネルギーの支援と引き換えに同国の核施設を停止、封鎖することに合意した。
 しかし、マカオの銀行口座に凍結されていた北朝鮮関連資金の凍結解除と返還が進まず、北朝鮮側は4月に設定された初期段階措置の実施期限を満たさなかったため、非核化プロセスは暗礁に乗り上げている。
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2229816/1627961


 朝日のニュースでは、安倍首相の「ミサイル発射は日本の安全保障にとって重大ではない」という点が強調されている一方、AFP通信のニュースでは安倍首相が北朝鮮を脅威とみなして警告を行っている点に焦点が当たっている。そもそも朝日のニュースには制裁に関する質問とそれに対する安倍首相の回答の部分がごっそり抜けている。
ここに問題がある。
 報道する側、マスコミが、その事件や会見をどう捉えるかによって、報道する内容がこれほどまでに違ってくるのは、意図的だと思われても仕方ない。ここまで報道する内容にばらつきがあると、リテラシーの無い視聴者はいったいどの報道の主張していることが正しいのか、困惑するのではないだろうか。というよりむしろ、自分たちの考えに共感するメディアしか見なくなってしまうのではないかという懸念も出てくる。
 報道というものは人々の情報の偏差を是正するものである以上、その報道は信頼のおけるもので無ければならない。近代社会を維持するものは情報であり、ひとは良くも悪くも情報によって行動している。そしてその情報の信頼性を形づくるもののひとつに中立性があげられる。ここ最近の北朝鮮報道をはじめとした、特に政治的な問題が絡んでくるテレビの報道には中立性が欠如しているような気がしてならない。テレビのニュースはあくまでニュースであり、機関紙ではない。中立性が確保されているという前提が無いと視聴者はその報道内容に懐疑的になってしまい、しまいにはマスメディアに対する不信感を抱いてしまうという事態に発展してしまうのである。
 中立性という言葉に注目するが、中立性がないのと中道性がないのはまた別問題である。ジャーナリズムの本質には権力の監視をしたり、主権者が権力を行使したりする際の情報を与えるといった機能がある。そこで中道性が少々スポイルされて、方や政府に批判的な意見が報道されたり、方や、政府に同調するような報道がされたりすることがあるのはある意味当然のことかもしれない。そこは仕方がないとしても、主義主張を無理繰り通すために、そこから一歩踏み込んで自分たちの報道の内容に都合の悪い情報を敢えて隠したり、物事を一方的に捉えて多角的な視点を持ち合わせていない報道というのは中立性を欠いていると言える。報道というのは視聴者に対して「間に受けてもらう必要がある」のが目的ではない。「間に受けてもらって支障ない」報道でないとその報道は印象操作になってしまう。フジ(産経)、読売、毎日、朝日、それぞれ拠って立つ理念はあるだろうし、さまざまな意見が賛否両論出てくることは日本の言論の自由が守られているいい傾向なのだろうが、新聞で言う社説欄とかならともかく、普通な報道によって何かのメッセージを意図的に伝えようとする姿勢はリテラシーの無い視聴者のミスリードを誘う危険性があるし、視聴者の不信を買うだけである。
 そして現にマスメディアに対する不信は特にブロゴスフィア2ちゃんねる上など、ネット上の言論を中心にして起こっている。私もネット上のブログや2ちゃんねるみたいなところをしばしば覗いたりするので特に思うのだが、ネット言論上における朝日と毎日に対するバッシングはやはり目を見張るものがある。いわゆるネットウヨクのような人々の書き込みがその元凶だといわれるが、だから彼らは保守的であり自民党支持者かといわれればみんながみんなそうでもない。むしろ彼らは著作権なんかの問題には手厳しい。稀なケースであることには間違いないが彼らは時には産経や読売を糾弾することもあるし現政権を批判することもある。おそらく彼らの何割かは、(読売産経を含めた)マスメディアの中道性の欠如を批判しているのではなく中立性の欠如を批判しているのだろうと私は考える。何か裏に利権が絡んでいるんじゃないかと勘繰られても仕方が無いと思う。あるいは彼らはすでにマスメディアの中立性の欠如に見切りを付けてしまったのかもしれない。極論を承知で言えば機関紙を見る感覚でニュースを見ているのである。先述した自分たちの考えに共感するメディアしか見なくなってしまうのではないかという懸念が実際に現れているのである。間に受けることが決してないという点ではある意味リテラシーのある行動ともいえるが。
 ともあれ、報道の中立性の欠如と、それに対する不信感が、特にネット言論上を中心として渦巻き始めているのではないかというのが最近の北朝鮮報道を見ていて私が思うことである。